●● 私の青空 ●●

 

 

伊東四朗さん演じる「北山辰男」はこんな人
大間町漁協の組合長であった。
マグロ一本釣り漁の名人である。
かーちゃんには、めっぽう弱い。

一方、本州最北端の町にいるのは…

 

大間町漁協・組合長 浜端廣文 昭和16年生まれ

組合長になって2年。「おれは、漁師で生きて、漁師で終わろうと思っている。だから、最後に漁師のためになることをやっていこう、って思ったわげさ。かーちゃんには、どーやって食っていぐのさ!って、怒らいだけど」ボリューム全開のしゃがれ声。初めて会った人はビビるかも知れない。これぞ大間漁師のド迫力。漁師たちは、親しみを込めて「ヒロ兄ぃ」と呼ぶ。

 

9才から海に出た。

おやじさんの後について、暇さえあれば海に逃げるような少年だった。初めてマグロを釣ったのは、13才。忘れもしない夏祭りの前の日。釣った相手は30kgの小学生か。中学卒業と同時に一人立ち。その年頃で独りで船に乗れないと、漁師をやる資格なし、ってなもんだ。それからずっと、マグロにこだわってやってきた。全く捕れなくて、カップラーメン買うお金さえなくなっても、マグロを追っかけてきた。そんなフミ兄のところに、脚本家の内館さんらがやってきた。マグロ一本釣りの話を詳しく聞きたいと。

 

200kgの大物を、釣ったときの気持ち。

「わがるが?金じゃねーんだ!漁師の意地さ!」獲物をロープでくくると、拳固でマグロのほっぺたをゴツンとやり、「エビス!」と叫ぶ。どでかい鯛をたずさえた、あの釣りの神様の名。この一言に、一本釣り漁師の思いが込められているのだ。そんなことを一通り話し終えると、「すごいですねーー」と言ったきり、内館さんらは黙り込んでしまったらしい。それから10日もしないうち、連絡があった。「大間で朝の連ドラやりますから、組合長、お願いします」と。


組合長の船は、第7廣盛丸。おやじさんの代から7隻目ってことらしい。
この船で、マグロを追いかけ続けてきた。
撮影に使うための船を、スタッフが探しあぐねていたとき。
たまたま通りがかりに「これが、おれの船だ」と教えたら、
「これだ!」と言われ、即使うことに。渋さがよかったらしい。
船名も「舷辰丸」と塗り替えられた。

 

伊東四朗さんに、漁師の魂を伝える。

エサのかけ方、投げ方、テグスの引き方…すべてやって見せた。
「いいがー伊東さん!このマグロ一本釣れば、かーちゃんと1年、食っていげるんだ!だから、ひっぱり方は、こうだ!帽子だなんて、かぶっていられねんだ!」
「明日こそ捕る!捕れないと、しゃべられる。浜端のやづ、また今年も捕れねーって。その気合いを込めて、糸の巻き方は、こう、ギリッギリッと!」
映像のことなんて、全くわからない。でも、それが本物のマグロ漁師かどうかは、自分が見極める。監督さんの陰で、こっそり組合長オッケーを出すこともあった。「ほれ、腰入ってねーどっ!」と気合いもかけた。教え方のうまさには、実は訳がある。マグロ一本釣りの技術指導員として、各地を回ってきたからだ。


 細いテグス一本で、マグロと自分が繋がっている。
今では、陸から海上にいるマグロ船の動きを見ているだけで
どんなマグロを追いかけているかが、すぐわかってしまう。
気性が荒いやつなのか、おっとりしたやつなのか。

 

「大間でいぢばん、ってことは、日本でいぢばんってことだ!!」

明治の時代から続いているマグロ一本釣り漁を、守り、進化させてきたのは、ここ大間町だけ。スーパーで買ってきたイカに細工をして、マグロに食わせることができるのは、大間の漁師ぐらいのもんである。それは、江差に指導に行ったときのこと。その細工の仕方を教えたら、とんでもなく器用だった地元漁師さんが作った糸に、見事に超大物が食らいついてしまった。さあ、大変だ。かかったはいいが、今度は引っ張る技術がない、ってなこともあったという。しかし、技術指導の最中に、いちばん目をぎらつかせているのは、実は同行していった大間の漁師たち。組合長の技を盗もうと、必死なのだ。

 

今までで、いちばん辛いと思ったときは?

と、聞いてみた。「いっつも、辛いがらなー。でも2日たてば、忘れるなー」
ドラマの中で、かーちゃんである加賀まりこさんに、伊東四朗さんがはっぱかけられているシーンがある。その場面を見ると、汗が出てくるという。組合長も、とにかくかーちゃんには頭が上がらないらしい。

 もどる